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イーココロ

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2006年11月16日 (木)

漫画家の弟子 第3章

あらすじ

セイはいきなり野呂新平と時田の仕事の手伝いに加わる。皆によく知られている連載漫画がセイのまん前で出来上がるのを見るのは、少々異常で、興奮することであった。時田は厚紙上のコマの中に定規を持って鉛筆で描き、野呂先生は軟らかい芯の鉛筆で、大まかな下書きを描いていた。彼は途方もない速さと力で描く。彼の鉛筆が紙に触れていない時でさえ、彼の手はまるで百の小さな丸を描いているかのように動いているのだ。それから時田の左小指が半分ほど切り取られているのに気がついた。先生はまったく秩序だった描き方をせず、コマからコマへ、まるで好きな場面を最初に描いているかのようだった。アイデアのよどみない流れが、先生の頭を通して、鉛筆の先から流れ出しているように見える。一度失敗をして大いにあわてたが、時田は新しい絵筆に白絵具をつけて、セイの失敗を修正した。
「すべて君の失敗はホワイトで修正すると、版おこしカメラには写らない。」
「どういうことです?」「編集者はこの手描き原稿を版にするために写真に撮るんだよ。」
なんてこと!もう安心だ。失敗原稿を棄てないでいいんだ。
先生が原稿を仕上げると、原稿を取りに来た加藤という記者も一緒に、みんなでお茶に出かけた。先生が加藤に仕事場を変えるというと、
「この前は一ヶ月も先生を見つけられなかったんですよ、二度とごめんです。編集長は先生が見つからないことでさえ、僕のせいにするんです。どうか先生、まだ失業したくないですから。昇進のチャンスがあるんです。どうか、移られたらできるだけ早くお知らせ下さい。キヨイさん、ごきげんよう。来週お目にかかりましょう。」
それから三人は先生の家に歩いていった。先生の奥さんは九州の若い女性で、マサコというのはセイの母と同じ名前だった。ご夫妻には5歳の女の子と、3歳の男の子があった。子どもたちを見ていて、突然に、先生の描く登場人物に子どもたちがそっくりなのに気がついた。
「あなたがキヨイさんね。」と野呂夫人が私に微笑んだ。
有名な漫画家が、普通の人と同じように結婚し子どもがおり、普通に生活しているのは奇妙な感じだった。野呂夫人は私たちに夕食を食べていくように言ったが、私は謝絶した。今日起こったことを一人になって考えたかったのだ。時田は仕事場に戻って別の仕事をしなくてはと言った。たぶん、先生が家族と静かに夕べを過ごす邪魔をしたくないと感じたのだろう。

(訳堀田穣)
The Ink-Keeper's Apprentice
Allen Say
Houghton Mifflin, 1994

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